「おっ、中々似合ってる」
馬子にも衣裳とでも言いたいんだと思う。
「私に似合っても。妹さんが似合わないと」
ウエディングドレスにいや結婚式に興味がない私でも着てみるとテンションは上がってくる。
Aラインのボリュームのあるチュールスリーブにスカートとバックリボンで凄くシンプルな物。
「まあまあ、そう言うなって。はい次」
簡単い言いますけど着替えも大変なんです!
黒髪ボブの私が着ても洋装が和装にしか見えてこない。
「分かりましたよ」
試着室へ戻り次のマーメイドラインのドレスを手に取った。
ドレスの人気NO1はAライン。
2位はプリンセス、3位はこのマーメイドラインらしい。
私はこのマーメイドラインのドレスが一番好み。
胸元はビスチェにハートカットを施されたデザインにオフショルダーのパフスリーブ。
甘めに見えるけど大きく開いた背中にはイリュージョンレース。
膝の少し上から広がる裾はシンプルなシルク素材だけど後面は長さ1メートルの総レースのトレーン。
「これが一番お似合いですね。素敵です」
スタッフに言われて仕方なく微笑む。
「おおっ!良いな。後ろ向いてくれるか?」
パシャパシャと何枚も写真におさめてく。
「もう良いですかー!」
さすがに疲れて笑顔も出ない。
「あの…お客様の携帯が何度も鳴っておりますが…」
テーブルに置いたままの携帯をスタッフさんが持ってきてくれた。
「ありがとうございます。…着信10件?!」
驚く間もなく鳴り出した着信は兄からの物で急いでスライドさせた。
『親父が屋根部分の足場から落て頭からの出血が凄い。今、星名に搬送されてる』
だから言ったのに!
小学生の時の記憶がフラッシュバックしてくる。
血だらけの祖父と青白い顏。
「すみません‼借ります‼」
「えっ?!お客様?!」
「おい!紅ちゃんどうし…何か後は任せろ」
「ありがとうございす!」
クソ親父!
やっぱり止めれば良かった!
「こんな時にこのドレス…裾邪魔!もうヒールも‼」
トレーンもスカートも捲り上げてヒールを手に持ち裸足で走る。
周りは見るけどそんなの病院着で道路を走った時よりはマシ。
「頭…こんな時、そうだ」
一瞬頭をよぎった案内板に足を止め、走る方向を変更した。
「お客様!そこは!」
「うるさい!人の命が父の命がかかってるのー‼」
会場入り口で止めるスタッフを強行突破して重厚な白い扉を勢いよく開いた。
ーバンッ
暗い会場のステージ上では何処か分からない臓器が映し出されてる。
一気に開いた扉と外からの光に来場中のお偉いであろう人達は驚き唖然と私を見てる。
そんなの知るか!
後でしこたま怒られても構わない!
「お客様、ここはシンポジウムの会場で結婚式の会場では」
「そんなの知ってるわよ!私だって花嫁じゃないの‼」
「お客様!」
ーフワッ
自分が突然宙に浮いた。
「すみません。俺の嫁です!」
「京祐…あの、あぁ、クソ親父が」
ホッとして涙が溢れる。
「分かったから急ごう。澪あとは」
「任せて。早く行きなさいよ」



