「ちょっとね」
耳を寄せて「合否の連絡」と囁いた。
やばい…忘れてた。
「それは後日にでも」
受かったのは京祐の推薦があったからと加藤主任から聞いている。
いくら絡みを避けても“お礼”は大事!
「分かった。青山先生、内科部長が血眼で探してましたよ」
「まじか…」
一気に血の気が失せてる。
「またな。頑張れよ」
「紅ちゃん…また来る…」
二人とも来ないで欲しい。
私の安寧の日々はいつになるのだろう…
◇
「油断も隙もないな。青山」
「油断?お前に言われたくないわ!」
図書館から院内へ戻りながらまだ静かな喧嘩は続いてる。
「ホント、お前とは気が合わない」
通りすぎる看護師に手を振る男と気があってもね。
「紅にちょっかい出してるって聞いたけど」
足を止めて青山の前に立ちふさがった。
「ちょっかい?本気なんだけど。婚約者のいるお前に関係ないだろ」
婚約者、星名 澪のことだ。
「澪はもっと関係ない」
「関係ない?一番傷つくのは澪だろ」
澪と青山と俺は同期で切磋琢磨をして頑張ってきた。
仲が良かったのは渡米前の話で最近は顏を合わせれば言い合いばかり。
理由は多分俺と澪の婚約。
「それならお前が優しくすれば良い」
「その冷静な顏がいつまで続くかな。俺は紅ちゃんを手にいれる。お前は澪と仲良くな」
「おい!」
立ちふさがった俺の横を通り過ぎて行く。
あの顏は本気。
インターン時代何度も見てる。
「紅を?」
確かに俺には婚約者がいる。
それには理由があって…
「京祐、立ち止まってどうしたの?」
「…今、青山と話してた」
同じ白衣の澪だ。
紅とは真逆の清楚なお嬢様の彼女は外科医。
手術の腕は最高だと思う。
「青山くん…何か言ってた?」
紅を狙うとは言えず「別に」とだけ言って笑って誤魔化した。
「次の手術、私も一緒なの。お昼先に済ませない?」
俺が何か隠したのを気付かれてる。
でも澪は何も言わない。
言わないと言うか聞けないんだ。
「俺は一度医局に寄るよ。手術よろしく」
澪に手を出すと重ねてきた。
「こちらこそ」
紅とはやっぱり違う。
そう思いながら手を離し医局に歩き出した。
こんな事してる時間はない。
「どうすれば…」
有名脳外科医と言う肩書のおかげで手術の依頼は他の医師より桁違いに多い。
平等に分けてると言うが難しい手術となると俺に回ってくる。
国内トップクラスの病院なんだから難しい物が回ってくるのは仕方ない…
「救う側だけど…俺が救われたい」
本音かボヤキか分からない。
(紅を補充したい…)
でも時間がない。
時間は作るもの…
「睡眠削るか」
医師に働き方改革なんて有って無いような物だ。
「行くか…」
首から下げたお守りにそっと触れる。
「一肌脱いで貰うしかないな…」
“将を射んとせばまず馬を射よ”
「お兄さんにっと」
連絡し心を落ち着けた。
「すみません、遅くなりました」
待ち合わせより30分遅刻で兄である圭太さんと会うことが出来た。
「先にやってたから気にするなって」
バンバンと背中を叩かれるけど苦笑いしか出来ない。
「俺も同じ物で」
カウンター席で直接大将に注文をする。
この店【粋(すい)】は圭太さんの行きつけで紅の実家と目と鼻の先。
「急でお姉さん怒りませんでした?」
女将さんからキンキンに冷えたジョッキを受け取り圭太さんのジョッキと併せ一気に半分飲み干した。
「愛は普通は怒らねーよ。怒ったの…あの時くらいじゃないか?」
あの時とは三年前の離婚した時。
「女性に殴られたの初めてでした」
ははっと笑ってお通しの菜の花の煮びたしでまたビールを飲む。
「紅も相当だけど、一番怖いのは愛だな。でもあれはお前が悪い」
話し合いもせず離婚した事へのお詫びに行ったことが原因で愛さんにビンタをされ皿まで投げられた。
「花瓶持った時は焦ったよな。はははっ!」
もうあの時は殺意を感じた。
耳を寄せて「合否の連絡」と囁いた。
やばい…忘れてた。
「それは後日にでも」
受かったのは京祐の推薦があったからと加藤主任から聞いている。
いくら絡みを避けても“お礼”は大事!
「分かった。青山先生、内科部長が血眼で探してましたよ」
「まじか…」
一気に血の気が失せてる。
「またな。頑張れよ」
「紅ちゃん…また来る…」
二人とも来ないで欲しい。
私の安寧の日々はいつになるのだろう…
◇
「油断も隙もないな。青山」
「油断?お前に言われたくないわ!」
図書館から院内へ戻りながらまだ静かな喧嘩は続いてる。
「ホント、お前とは気が合わない」
通りすぎる看護師に手を振る男と気があってもね。
「紅にちょっかい出してるって聞いたけど」
足を止めて青山の前に立ちふさがった。
「ちょっかい?本気なんだけど。婚約者のいるお前に関係ないだろ」
婚約者、星名 澪のことだ。
「澪はもっと関係ない」
「関係ない?一番傷つくのは澪だろ」
澪と青山と俺は同期で切磋琢磨をして頑張ってきた。
仲が良かったのは渡米前の話で最近は顏を合わせれば言い合いばかり。
理由は多分俺と澪の婚約。
「それならお前が優しくすれば良い」
「その冷静な顏がいつまで続くかな。俺は紅ちゃんを手にいれる。お前は澪と仲良くな」
「おい!」
立ちふさがった俺の横を通り過ぎて行く。
あの顏は本気。
インターン時代何度も見てる。
「紅を?」
確かに俺には婚約者がいる。
それには理由があって…
「京祐、立ち止まってどうしたの?」
「…今、青山と話してた」
同じ白衣の澪だ。
紅とは真逆の清楚なお嬢様の彼女は外科医。
手術の腕は最高だと思う。
「青山くん…何か言ってた?」
紅を狙うとは言えず「別に」とだけ言って笑って誤魔化した。
「次の手術、私も一緒なの。お昼先に済ませない?」
俺が何か隠したのを気付かれてる。
でも澪は何も言わない。
言わないと言うか聞けないんだ。
「俺は一度医局に寄るよ。手術よろしく」
澪に手を出すと重ねてきた。
「こちらこそ」
紅とはやっぱり違う。
そう思いながら手を離し医局に歩き出した。
こんな事してる時間はない。
「どうすれば…」
有名脳外科医と言う肩書のおかげで手術の依頼は他の医師より桁違いに多い。
平等に分けてると言うが難しい手術となると俺に回ってくる。
国内トップクラスの病院なんだから難しい物が回ってくるのは仕方ない…
「救う側だけど…俺が救われたい」
本音かボヤキか分からない。
(紅を補充したい…)
でも時間がない。
時間は作るもの…
「睡眠削るか」
医師に働き方改革なんて有って無いような物だ。
「行くか…」
首から下げたお守りにそっと触れる。
「一肌脱いで貰うしかないな…」
“将を射んとせばまず馬を射よ”
「お兄さんにっと」
連絡し心を落ち着けた。
「すみません、遅くなりました」
待ち合わせより30分遅刻で兄である圭太さんと会うことが出来た。
「先にやってたから気にするなって」
バンバンと背中を叩かれるけど苦笑いしか出来ない。
「俺も同じ物で」
カウンター席で直接大将に注文をする。
この店【粋(すい)】は圭太さんの行きつけで紅の実家と目と鼻の先。
「急でお姉さん怒りませんでした?」
女将さんからキンキンに冷えたジョッキを受け取り圭太さんのジョッキと併せ一気に半分飲み干した。
「愛は普通は怒らねーよ。怒ったの…あの時くらいじゃないか?」
あの時とは三年前の離婚した時。
「女性に殴られたの初めてでした」
ははっと笑ってお通しの菜の花の煮びたしでまたビールを飲む。
「紅も相当だけど、一番怖いのは愛だな。でもあれはお前が悪い」
話し合いもせず離婚した事へのお詫びに行ったことが原因で愛さんにビンタをされ皿まで投げられた。
「花瓶持った時は焦ったよな。はははっ!」
もうあの時は殺意を感じた。



