公爵様の偏愛〜婚約破棄を目指して記憶喪失のふりをした私を年下公爵様は逃がさない〜



「えぇ、婚約解消はしない?!」

「ああ、公爵家より先ほど連絡がきたよ」

「でも、でも!私、彼を支えるといってもルーカス様のこと、何一つ覚えていなくて…」

 お父様に呼び出された私は、まさかの結果に驚愕した。作戦決行して、すぐに失敗するとは思わなかった。


 私は深いため息をつく。


 元々、ルーカスと私の婚約はアーレンベルク公爵家からの一方的なものだった。


 ルーカスとは訳あって一時期だけ、ローゼ家の屋敷で一緒に暮らしていたことがあり、彼本人の強い希望で、気心の知れた相手がいい──と私が選ばれたらしいが…
 実際はローゼ家への監視の目的もあったのだと思う。


(そんなことをしなくても、私達はルーカスの秘密を誰にも話したりしないのに…)


 なので、私は全く乗り気ではなかった。しかし、立場も気も弱いお父様は二つ返事で承諾した。


 だが、アーレンベルク公爵夫妻は私達の婚約を快く思っていなかった。
 二人はルーカスにはもっと相応しい相手がいると考えており、以前から婚約解消の機会を狙っていたはずなのだけど…。


「やはり、本人からの強い希望があったらしくてな」

「それって、私が幼少期のルーカス様を知っているからでしょう?でも、それは記憶を無くす以前の話であって、今では他の令嬢の方々と何も変わらないのに」

 涙ながらに訴えてみるが、事実は変えられない。公爵家と我が家ではどちらが強いかなんて明白だ。
 向こうが婚約解消をしないというのなら、こちらはもう何もいえない。

(どういうことなのよ、ルーカス!)

 その場で叫びだしたいぐらいだったが、それも叶わない。ここからどうしようかと考えていれば、ノックの音が響いた。
 挨拶をして入ってきたマリアが、私を見て、とても言いづらそうに口を開いた。

「……お嬢様。ルーカス様がお見えになられました」

 追い打ちをかけるような彼女の言葉に思わず頭を抱えた。