公爵様の偏愛〜婚約破棄を目指して記憶喪失のふりをした私を年下公爵様は逃がさない〜




「エルーシア。さっきは大きな声を出して悪かった」

 マリアとの話は終わったのか、私の元へとやってきたルーカスが頭を下げる。

「いえ、そんな…私が何か失礼な事を言ってしまったのでしょう?」

「いや、君は何も悪くない。君の口から聞きたくない言葉が出たから、少し動揺してしまって…」

 ルーカスが聞きたくない言葉とは一体? 全く身に覚えがなかったが、深入りすることでもないと思い、そのまま受け流す。

「改めまして、俺の名前はルーカス・アーレンベルク。エルーシア・ローゼ嬢、君の婚約者だよ」

「こ、婚約者…?!だって私とルーカス様ではご身分が…」

「関係ないよ。俺達は愛し合っていたのだから」

「ね、そうだろう?」とお得意の作り笑顔でマリアに問いかければ、彼女は勢いよく首を縦に振る。ルーカスの圧に負けて頷いたマリアには、後でお説教するとして、そんなことより…

(私とルーカスが愛し合っていたなんて、一体どんな嘘よ!!)

 愛し合う以前に、ろくに会話もしたことないじゃないか。思わず否定をしようと口を開いたが、計画を思い出して慌ててやめる。

(大丈夫、まだ私の計画は始まったばかりよ。ここからどうとでもできるわ…やるのよ、エルーシア自分の幸せのために)