公爵様の偏愛〜婚約破棄を目指して記憶喪失のふりをした私を年下公爵様は逃がさない〜



「ねえ、エルーシア。カサブランカの花言葉は知ってる?」

「花言葉?ええっと、確か「祝福」、「無垢」とかだったかしら…」

「そう。さすがエルーシア」

 ルーカスも花言葉とか知っているんだ、なんて呑気に考えながら差し出された一本を受け取れば、彼は「じゃあ」と続けた。
 
 すると、私の手の中にあるカサブランカの花が光に包まれ、真っ白だった花弁が、黄色へと色を変えた。

「黄色のカサブランカの花言葉は?」

「黄色のカサブランカの花言葉…」


 黄色のカサブランカの花言葉って何だったけ。どうしても白いイメージがあるから、あまりピンとこない。思い出そうとしていると、ルーカスがくすくすと笑った。もう、正解を知っているのなら、笑ってないではやく教えてほし──。


「──『裏切り』だよ」


 そう言い放つと、ルーカスは私の手の中にあったカサブランカを握りつぶした。ぐしゃり、と嫌な音がして花弁が散る。


 呆気に取られる私を見つめるルーカスの表情は冷たい。この表情の彼はよく知っている。記憶喪失のふりをする前、私に見せていた表情だ。


 目を逸らすように地面に落ちていく花弁をじっと見つめていれば、ルーカスが「ああ、ごめんね」と明るい声色で言った。


「つい力を入れすぎちゃった。ほら、こっちの綺麗なのをあげるから許して」


 そう言って白いカサブランカを差し出すルーカス。「純粋無垢なエルーシアにはぴったりだ」なんて笑っていたけど、私は何も言えずただ黙っていた。

 受け取る際に触れたルーカスの手があまりにも冷たくて、ただただ恐ろしかった。