公爵様の偏愛〜婚約破棄を目指して記憶喪失のふりをした私を年下公爵様は逃がさない〜



 暗くなる前に帰ろうと言うルーカスに、思わず黙り込んでしまった。


「そんな名残惜しそうな顔をされると、帰したくなくるなぁ」

「だ、だってとても綺麗だったから…」

 それもあるが、最近は少しずつだがルーカスとの時間が楽しいと思うことが増えてきた。もちろん、彼の嘘話や過度なスキンシップには頭を抱えることはあるが。


(あんなに婚約解消したかったはずなのに、こんなのおかしいわよね…)


 だけど、マリアと話していた時から薄々気づいていた。記憶喪失のふりをしてからのルーカスの態度に戸惑いつつも、少しだけ嬉しく思う自分がいることに。


 記憶が戻ったってルーカスに言いたくないのは、以前の彼に戻ってこの関係が崩れてしまうのが怖かったからなのかもって。


(自分で始めたことなのに、こんなの都合が良すぎる……)


 だけど、どんなに私達の関係が変わったからって、私達が不釣り合いな事実は変わらないのだ。───だから、婚約解消はしなくてはいけない。


 浮かない表情をしてしまったのだろうか、ルーカスが私の頭を撫でる。こういう小さな触れ合いを嬉しいと思っている時点で、私はもう駄目なのしれない。


「じゃあ、最後にエルーシアにプレゼントをあげる」

「プレゼント?」

「うん、目を閉じて」


 そう言うとルーカスは呪文を唱え始めた。
 最近のルーカスは何かにつけて私にプレゼントを贈ってくれる。
 

 今度は一体なんだろうか?少しだけドキドキしながら目を閉じる。


「開けていいよ」

「わぁ…!」


 目を開ければ、ルーカスの手の中にはカサブランカの花束がつくられていた。
 キラキラとした表情で見ていれば、彼はその中の一本を私の目の前に差し出した。