公爵様の偏愛〜婚約破棄を目指して記憶喪失のふりをした私を年下公爵様は逃がさない〜



「ほらみて、エルーシア。満開だ」

「わあ! とても綺麗!」


 ルーカスと手を繋ぎながら花畑を歩く。彼が指差した方には、確かに私の好きな種類の花が満開に咲いていた。


 以前、ルーカスに花が好きだと話をしたことがあった。てっきり私の話など興味がないと思っていたが、どうやらちゃんと覚えていたらしい。


 やはり、私のお気に入りの場所なだけあって、気分が上がる。ついつい夢中になってルーカスの手を離せば、後ろから慌てたような彼の声が聞こえた。


「エルーシア、走ると危ないよ」

「あ! ご、ごめんなさい、つい気分が上がってしまって…その、はしたなくて…」

「ううん、すごく可愛い」


 ストレートなルーカスの発言に顔が赤くなるのがわかった。この状態になってから、彼はかわいいとか綺麗とか、そういう言葉をよく伝えてくる。


(前はそんなこと一言も言わなかったのに!)


 なんと返せばいいのか分からず、赤い顔で黙り込んだ私の頭をルーカスがそっと撫でる。
 柔らかいその仕草と表情で、より一層照れてしまうからやめてほしい。


「少し休もうか」


 ルーカスの言葉に頷いて、その場に腰掛けようとすれば、服が汚れないようにと、彼が魔術をかけてくれた。