公爵様の偏愛〜婚約破棄を目指して記憶喪失のふりをした私を年下公爵様は逃がさない〜



「俺の術で花畑をつくってもよかったんだけど、せっかくならエルーシアのお気に入りの場所に行きたいなって思って」

「私のお気に入りの場所?」

「あれ、それも忘れちゃった?ほらあの──」

 そう言って場所の説明をするルーカスに驚愕した。たしかに私にはお気に入りの花畑がある。気持ちが沈んだ時などは、よくそこへ一人で行っていた。


 だけど、その場所についてルーカスに話したことはない。というか、マリア以外に言ったことがない。それなのにどうして彼が知っているのだろう。

 マリアが話した? 
 いや、ルーカスとマリアが話しているところなんて殆ど見たことない。


 色々と考えていれば、不思議そうな顔をしたルーカスが顔を覗き込んでくる。

「どうしたの? 変な顔して」


 変な顔とは失礼な。──そう思ったが、私は慌てて「何でもない」と笑った。
 聞きたいけれど、聞けない。記憶喪失のふりをしてからは、そんなことばかりである。