公爵様の偏愛〜婚約破棄を目指して記憶喪失のふりをした私を年下公爵様は逃がさない〜



 そして、人伝てにルーカスの事を聞いたというアーレンベルク公爵夫妻が「ルーカスを引き取りたい」と、我が家にやってきたのは、それからすぐのことだった。


 子宝に恵まれなかった夫妻は、優秀な後継者を探していると言っていた。お父様はルーカスの事情を簡単に伝えたが、夫妻はそれでも構わないといった。


 我が家よりも身分の高い公爵家からの話だ。断ることはほぼ不可能に近いのは明白だったが、それでも、お父様とお母様は私の希望を叶えようとしてくれた。


「エルーシアは、このままルーカスと一緒がいいかい?」


 正直、ルーカスと離れるのはとても嫌だった。彼に嫌われていようとも、私はできればずっと彼と一緒に居たかったのだ。


 けれど、幼い頭でも、我が家で過ごすよりも公爵家に行く方がルーカスのためにもなるのは分かっていた。


 ルーカスのことを大切に思っているからこそ、彼には何不自由なく幸せに暮らしてほしい。
 ──そこに私はいなくてもいいから。そう思い、私は首を横に振った。


「ルーカスと一緒じゃなくていい」


 そうして、私はルーカスと離れることを選んだのだった。