公爵様の偏愛〜婚約破棄を目指して記憶喪失のふりをした私を年下公爵様は逃がさない〜



 


 ルーカスは元々孤児だった。


 初めてルーカスと出会った日、暗くてじめじめとした路地に彼は座りこんでいた。
 綺麗な銀色の髪は、ざんばらで見るに耐えない。そして、服の袖から覗く手足は、今にも折れてしまいそうなぐらいに痩せ細っていた。


 そんななかでも、キラキラと輝くルーカスの金色の瞳がとても綺麗で、私は思わず目が奪われた。

 侍女の制止を振り切って、私はルーカスの元へと近寄る。
 こちらを見つめるルーカスの顔は険しいものだったけれど、間近で見た彼の瞳はより一層綺麗で、私は目が離せなかった。

「あなた、お名前は?」
「………」

 ルーカスは答えなかった。それでも私は言葉を続ける。

「わたしはね、エルーシアっていうの。ねえ、もしどこにもいくところがないなら、わたしのお家においでよ」

 そういって差し出した私の手を、ルーカスは控えめに握った。それがなんだかとても嬉しくて、私は力いっぱいに彼の手を握り返した。


 屋敷へと連れて帰ったルーカスの身体を清めようとすれば、彼は激しく抵抗した。


 暴れるルーカスを抑えようと使用人たちが手を焼いていたので、何か手伝おうと私がそっと近寄れば、彼は私の背に隠れてた。私の服の端をギュッと握りしめて。


 それに気をよくした私は、使用人たちを下がらせて、彼のお手伝いをすることにした。幼いとはいえ、一応男の子なので途中までだけど。しかし、上の服を脱いだルーカスの背中をみて、私は思わず小さな悲鳴をあげてしまった。


 ──彼の背中には火傷のような跡を無理やり引っ掻いた、痛々しい傷跡があったのだ。


 私の悲鳴を聞いたルーカスが、そのまま私の腕をひっぱって浴室から追い出したので、すぐにお父様に報告しに行った。彼の傷跡に効くなにかいい薬はないか、と。傷の特徴までも詳細に話した。


 しかし、私の話を聞くと、お父様は難しい顔をしてこう言った。