公爵様の偏愛〜婚約破棄を目指して記憶喪失のふりをした私を年下公爵様は逃がさない〜



 そろそろ時間が…というルーカスを見送ろうとすれば、「そうだ」と彼がゴソゴソと何かを取り出した。そして、目の前に差し出されたのは、彼の瞳と同じ金色の耳飾りだった。

 何か、と聞けば「プレゼント」だという。
 あのルーカスが私にプレゼントだなんて、明日の天気は大荒れに違いない。


「折角だからエルーシアの気持ちが少しでも晴れるよう、魔術をかけてあげる」


 そういってルーカスは何かの呪文を唱え始めた。
 光に包まれた耳飾りは、キラキラと輝きはじめた。魔術が全く使えない私からすれば、どんな魔術を使っているのか見当もつかないが、この光景は綺麗だと思った。

「身につけてくれる?」

 魔術をかけ終わったルーカスが、耳飾りを私の手に差し出した。
 正直なところ受け取りたくはない。しかし、拒否するわけにもいかないので、黙って受け取る。


「どう、でしょうか…?」

 渋々耳につけて、ルーカスに見せれば、彼の表情がぱっと明るくなった。

「すごく似合ってる。綺麗だ、エルーシア」


 愛しそうに私のつけた耳飾りを撫でるルーカスを見ると、思わず目を背けたくなった。


「ねぇ、エルーシア。もしこの先──君の記憶がずっと戻らないままだとしても、俺の気持ちは変わらないよ。だから安心して? 俺達はずっと一緒だ」


 私の耳飾りに触れたまま、ルーカスはそう告げる。まるで心の底から私を愛しているかのような表情で。
 あまりにもひどい彼の変わりように、もうとっくに痛くないはずの頭がズキズキと痛む。


(──ねえ、ルーカス。もしかして、記憶を無くしているのはあなたの方だったりするのかしら)


 痛む頭を誤魔化すように、私はそっと目を閉じた。