「そう、だったの。何だか恥ずかしいわ…」
「ふふっ、昔のエルーシアは泣き虫で可愛かったな」
「ははは…」
「俺が公爵家に引き取られた日もエルーシアはとても泣いていて。別れるのが本当に辛かったのを覚えてるよ」
また嘘だ。
ルーカスは泣いている私など無視して、そそくさと馬車に乗り込んでいった。
「その時に渡してくれた耳飾り、今でも大切につけているよ。──ほら」
「覚えてる?」と、自身の耳につけられた飾りを指さすルーカス。キラキラと輝くソレは私の瞳と同じ翡翠色をしている。
───まだ、持っていたのか。彼がその耳飾りを身に着けているところを一度も見たことがなかったので、てっきりとっくの昔に捨てられたものだと思っていた。
もちろん耳飾りのことは覚えている。だけど、私は申し訳なさそうな表情を浮かべて、首を横に振った。
「その…ごめんなさい…覚えていなくて…」
私の言葉にルーカスは一瞬悲しそうな泣きそうな表情を浮かべたが、すぐに「気にしないで」と笑った。
その表情すら彼の嘘かも知れないというのに、胸がズキリと痛んだ気がした。


