公爵様の偏愛〜婚約破棄を目指して記憶喪失のふりをした私を年下公爵様は逃がさない〜



 突然の発言に、思わず飲んでいた紅茶を吹き出しそうになってしまった。

「まさかとは思うけれど、エルーシア。俺との婚約解消したいなんて、いわないよね?」

 
 ルーカスの鋭い視線に思わず生唾を飲み込む。


「も、もちろんよ! でも、そ、その、あなたは数少ない魔術師で、公爵家の人間だし…記憶喪失の私よりきっともっと他に相応しい相手がいるのではないかって」

「そんなの関係ない。俺にとっては君が全てで、君以外の人間と結婚するなんて、ありえない」


「エルーシアも同じ気持ちでしょ?」と、まるで突然かのように言われてしまい、思わず頷いてしまった。

 私のことを冷ややかな目で見ていたルーカスがまるで嘘のように、今の彼はおかしい。これでは本当に私のことが好きみたいじゃないか。


「で、でも、ルーク。私、あなたのこと何も覚えてないのよ。お父様やお母様は私とルークが幼少期を一緒に過ごしていたっていうけれど、とても信じられなくて…」

「ローゼ夫妻の話は本当だよ。──昔のエルーシアは泣き虫でよく怖い夢をみたって、俺の部屋まできてさ。そんな日は夫妻にバレないようこっそり二人で一緒のベッドで眠ったんだ」


 どこか楽しそうに嘘の思い出話をするルーカス。

(嘘ばっかり。泣きながら部屋まで行った私をすぐに追い返したじゃない)


 彼の嘘に呆れながらも、私は話を合わせる。