公爵様の偏愛〜婚約破棄を目指して記憶喪失のふりをした私を年下公爵様は逃がさない〜



「そのルーカス様、本日はどのような──」

「ルーク」

「え?」

「ルークって呼んで。エルーシアはいつも俺をそう呼んでいた。あと、敬語もやめてね」

「で、ですがっ…」

「でも、何? 記憶がないからといって、別に変える必要なんてないよね?」

 有無を言わさないような声色と笑顔でそういわれてしまい、つい頷いてしまった。

「……ルーク」

「なあに、エルーシア」

 素直にルークと呼べば、満足といった様子でにこやかに返事をする。
 一度たりとも彼のことをそう呼んだことはないので、違和感しかない。

「その、ルークは今日どうしてここへ?」

「可愛い婚約者の顔を見にきてはだめ?」

「……だめ、ではないけれどあなたは忙しい人だから」

 こんなところで油を売っている暇はあるのかと、そうやんわりと問いかければルーカスは「問題ないよ」と笑った。
 今まで忙しさを理由に私との約束をすっぽかしていた男とは思えない、いい返事だ。


「それに、ローゼ夫妻から君の記憶喪失を理由に、婚約解消について話をされてね。もちろん断ったけれど、エルーシアの気持ちを確かめたいなって思って」