隣人の幼馴染にご飯を作るのは今日で終わり

「蒼くん、蒼くん!待って、待ってよ」

 どのくらい歩いただろう。公園にたどり着いて、蒼くんはようやく立ち止まった。

「ありがとう、なんか、巻き込んでごめん」

 私が俯きながらそう謝ると、蒼くんははあーと大きくため息をついた。本当にごめん、ため息もつきたくなるよね。

「なんであいつなんだよ」
「……?」
「なんであんな奴の誘いなんか受けたんだよ」

 髪の毛をぐしゃぐしゃとしながら、蒼くんは吐き捨てたように言う。

「それは……」
「やっぱりあいつのことが好きだったのか?」
「違う!」
「だったらなんで?俺、わかんないよ。ひよりには俺がいるのに、なんで急に男なんか作ろうとしてんだよ……」

 はあーとまた大きくため息をつきながら、蒼くんは片手で顔を覆っている。俺がいる?それってどういうこと?

「蒼くんには、みさ姉がいるじゃない」
「は?なんでみさ姉が出てくるんだよ。この間だってそうだった」
「それは……だって、蒼くんはみさ姉のこと好きなんでしょう?二人、付き合ってるんでしょう?」
「は?」

 蒼くんは私の言葉に唖然としている。どうしてそんなに驚いているの?私が知らないとでも思った?

「たまに商店街とかで二人の姿を見たことがあるの。二人ともすごく仲が良さそうで、楽しそうで、蒼くんとっても嬉しそうだった。付き合ってるなら早く言って欲しかった。そしたら私……」
「付き合ってない」
「え?」
「付き合ってない!みさ姉と俺は付き合ってない!そもそも、みさ姉には彼氏いるし」

 え?どういうこと?

「だって、蒼くん、みさ姉と一緒にいる時、すごく嬉しそうな幸せそうな顔してた!」
「そんなわけない!俺がそんな顔になるとしたら……」

 そう言って、蒼くんは気まずそうに口元を押さえた。ほら、やっぱり、みさ姉のこと好きなんでしょう?

「隠さなくてもいいのに。二人のこと、応援するのに」

 嘘だ。本当は応援したくない。二人を見ると、辛くて、悲しくて、逃げ出したくなる。

「……応援、できるの」

 蒼くんが複雑そうな顔で聞いてきた。どうしてそんな顔するの?

「俺は、ひよりに彼氏ができても、応援できない。したくない」
「……?どうして」
「どうしてって……ひより、本当にわかってないの?」

 ずいっと目の前まで蒼くんが近寄って、顔を覗き込まれた。急すぎて、心臓がギュンッと高鳴る。

「わかって、ないって、何を?」

 蒼くんを見つめると、蒼くんは目を見開いてから、はあ、と小さくため息をついた。

「俺が好きなのはひよりだよ。みさ姉じゃない。なんでそんな勘違いしたのかわかんないけど……みさ姉は俺のこと弟のようにしか思ってないし、俺もみさ姉のこと姉のようにしか思ってない。商店街に一緒にいたのは、たまたまばったりあって帰り道そのまま一緒になっただけだよ」
「っ、え、でも、蒼くんみさ姉と一緒の時すごく嬉しそうな顔してた……!」
「それは!……それは、みさ姉にひよりのこと聞かれて、ひよりのこと話してた時、だと思う。俺がそんな顔になるの、ひよりのこと考えている時だけだから」

 そう言ってから、ふい、と視線を逸らされた。蒼くんの耳が、ほんのり、赤い。もしかして、照れてるの?って、蒼くんが、私のことを好き!?