隣人の幼馴染にご飯を作るのは今日で終わり




「な、んで、いるの?」

 同級生との待ち合わせ場所の少し手前に、なぜか蒼くんが立ちはだかっていた。思わず、蒼くんの手を取って同級生の死角に移動する。

「俺と一緒にいるの、見つかったらまずいんだ?」
「そうじゃないけど、びっくりして……!」
「へえ」

 蒼くんは不機嫌そうに、私のことを上から下までじっくり眺めている。

「な、に?」
「随分とお洒落してるんだな」

 ムッとしながら蒼くんは言った。別に、そんなにお洒落したつもりはないし、いつも通りだ。いつもはおろすか一つに結ぶかしているセミロングの髪の毛も、今日はお出かけだからとちょっと編み込んでアレンジしたくらい。
 蒼くんこそ、制服姿もかっこいいけど、私服姿もやっぱりかっこいい。シンプルな装いだけど、そもそもがかっこいいから目を引く。私みたいなごくごく普通の女子高校生が蒼くんの隣にいるのはなんだか不釣り合いな気がして気が引けてしまう。

なんでそんなに不機嫌そうなの?なんでそんなに不満そうなの?そもそもどうしてここに?聞きたいことが山ほどあるのに、なぜか言葉が出ない。そう思っていたら、同級生のスマホの着信音が鳴るのが聞こえてきた。

「あ、もしもし?ああ、これからだよ。まだ来ない、待ってる。え?ああ、大丈夫だって。男いたことなさそうだし、ちょっと押せば多分楽勝でしょ。落とせたら俺の勝ちだからな」

 ははは、と楽しそうに笑っている。たまに周囲をチラチラと見ているのは、私が近くにいないか確認しているんだろう。死角になる場所に隠れているから、同級生には見つかっていない。

(あれ、私のことなのかな)

 押せば楽勝、落とせたら俺の勝ち。それってつまり、私と付き合えるかどうか賭けてるってことだよね?胸の中に、黒いモヤのようなものがどんどんと広がっていくのと同時に、悲しい気持ちが込み上がってくる。

(蒼くんに言われた通りだった。クソみたいな奴で、騙されてたんだ)

 目の前にいる蒼くんの顔を見れない。俯いて黙っていると、蒼くんに急に手を掴まれ、引かれる。

「えっ!?」

 蒼くんは私の手を掴んだまま、同級生の目の前に出た。

「おい、お前、二度とひよりに近寄るな。ひよりは俺のだ、クソが」
「……は!?なんだよお前、って、男いたのかよ!?」

 ふざけんなよ!と後ろから同級生の声がするけれど、蒼くんは私の手を引いてズンズンと歩いていった。