「お皿、洗っていくね」
「お、じゃ手伝うよ」
「ううん、いいよ、今日は洗い物少ないし。蒼くん座ってて」
「んー?そう?」
蒼くんは座ったまま少し不満げな顔をしている。言うなら今だ、お皿を洗っていれば蒼くんの顔は見なくていいし、緊張しなくて済む。
「あのね、蒼くん」
「何?やっぱり手伝う?」
「ううん、大丈夫。そうじゃなくて、……私、もうご飯作りに来るのやめようと思ってるんだ」
「……は?なんで?」
蒼くんの声音が固くなる。きっと今、絶対私のこと見てる。でも、目を合わせることなんてできなくて、ひたすらお皿を洗うことに集中した。
「蒼くん、受験でしょう。私、邪魔しちゃいけないと思って。ご飯作りに来ると、つい話込んで長居しちゃうから」
「なんだよ、そんなことか。別に大丈夫だよ、そんなことで俺の成績が落ちるわけないだろ」
「それは、そうだけど……とにかく、もう作りには来ないから。あ、でも、お母さんが作ったご飯はまた届けにくるから安心して」
へへっと笑ってつい顔を上げると、そこには複雑そうな不信そうな顔の蒼くんがいる。ああ、やばい、顔見るんじゃなかった。慌てて、また洗い物に視線を落とす。
「なんでそんな急に……」
〜♪
蒼くんの言葉を遮るように、私のスマホの音が鳴る。メッセージかな。
「スマホ、鳴ったよ」
「うん、後でみる」
立て続けに何回か鳴ったので、多分数回に分けてメッセージが送られて来たんだろう。誰かな、なんて考えるより、蒼くんの機嫌の悪そうな声が頭から離れない。
「ひより、明後日水族館に行くの?」
「え?」
「これ。男だろ?誰だよこいつ」
視線を上げると、蒼くんが私のスマホを片手にフラフラと揺らしている。画面にメッセージがポップアップで載ったのを、蒼くんが見てしまったらしい。蒼くんは明らかに不機嫌そうな顔をして私を見ている。
「えっと、学校の、同級生……?」
明後日、同級生の男子に誘われて水族館に行くことになっていたことを思い出した。きっとその同級生からのメッセージだろう。
「もしかして、彼氏?いつの間に彼氏なんか作ってたんだよ」
「え、彼氏、ではないよ」
「へえ、……もしかして、ご飯作りに来ないっていうの、こいつのため?」
「え?」
「こいつに遠慮して来ないつもりなの?」
「そういうわけじゃないけど……」
「でも、デートするんだろ、こいつと」
デート。そっか、デート、なのかな。同級生からの誘いを受けたのは、蒼くんから卒業しようと思ったから。いつまでも蒼くんのそばにいると、叶わない恋だってわかっているのに、蒼くんへの気持ちが強くなりすぎて、辛いから。だから、蒼くん以外の男の子と仲良くなって、蒼くん離れをしようと思ったのだ。
「なんでそんなに不機嫌そうなの?蒼くんに関係ないじゃん。蒼くんだって、みさ姉とデートしたりするでしょ」
「なんでみさ姉が出てくるんだよ。こいつとみさ姉は立場も状況も違うだろ」
違う?違くなんてないよ。蒼くんとみさ姉はどう見てもお似合いだし、きっと両思いだ。私にとっては蒼くんとみさ姉はデートしてるようにしか見えない。みさ姉は美人で優しくて大人だ、蒼くんはきっとそんな大人なみさ姉のことが好きで、私みたいな幼い、可愛げもない女なんて好きにならないってわかってる。
「こいつのこと、好きなの?」
「別に、好きとかじゃないし、そもそもまだよくわかんないよ」
「なんで好きでもないやつと一緒に水族館なんて行くんだよ。もしもクソみたいな奴で騙されてたらどうすんだよ」
「そんなことするような子じゃないよ!……知りもしないくせにそんなこと言わないで」
私の返事を聞いて、蒼くんは明らかに怒った顔をしている。どうして蒼くんが怒るの?蒼くんには関係ないでしょう?蒼くんにそんなこと言われたら、蒼くんへの報われない思いが溢れて口からこぼれてしまいそうになる。
「っ、とにかく、蒼くんには関係ないでしょ!お皿、洗い終わったから帰るね!」
蒼くんからスマホを奪って、私は蒼くんに背中を向けて出ていった。こんな風に今日を終わらせるつもり、なかったんだけどな……。
「お、じゃ手伝うよ」
「ううん、いいよ、今日は洗い物少ないし。蒼くん座ってて」
「んー?そう?」
蒼くんは座ったまま少し不満げな顔をしている。言うなら今だ、お皿を洗っていれば蒼くんの顔は見なくていいし、緊張しなくて済む。
「あのね、蒼くん」
「何?やっぱり手伝う?」
「ううん、大丈夫。そうじゃなくて、……私、もうご飯作りに来るのやめようと思ってるんだ」
「……は?なんで?」
蒼くんの声音が固くなる。きっと今、絶対私のこと見てる。でも、目を合わせることなんてできなくて、ひたすらお皿を洗うことに集中した。
「蒼くん、受験でしょう。私、邪魔しちゃいけないと思って。ご飯作りに来ると、つい話込んで長居しちゃうから」
「なんだよ、そんなことか。別に大丈夫だよ、そんなことで俺の成績が落ちるわけないだろ」
「それは、そうだけど……とにかく、もう作りには来ないから。あ、でも、お母さんが作ったご飯はまた届けにくるから安心して」
へへっと笑ってつい顔を上げると、そこには複雑そうな不信そうな顔の蒼くんがいる。ああ、やばい、顔見るんじゃなかった。慌てて、また洗い物に視線を落とす。
「なんでそんな急に……」
〜♪
蒼くんの言葉を遮るように、私のスマホの音が鳴る。メッセージかな。
「スマホ、鳴ったよ」
「うん、後でみる」
立て続けに何回か鳴ったので、多分数回に分けてメッセージが送られて来たんだろう。誰かな、なんて考えるより、蒼くんの機嫌の悪そうな声が頭から離れない。
「ひより、明後日水族館に行くの?」
「え?」
「これ。男だろ?誰だよこいつ」
視線を上げると、蒼くんが私のスマホを片手にフラフラと揺らしている。画面にメッセージがポップアップで載ったのを、蒼くんが見てしまったらしい。蒼くんは明らかに不機嫌そうな顔をして私を見ている。
「えっと、学校の、同級生……?」
明後日、同級生の男子に誘われて水族館に行くことになっていたことを思い出した。きっとその同級生からのメッセージだろう。
「もしかして、彼氏?いつの間に彼氏なんか作ってたんだよ」
「え、彼氏、ではないよ」
「へえ、……もしかして、ご飯作りに来ないっていうの、こいつのため?」
「え?」
「こいつに遠慮して来ないつもりなの?」
「そういうわけじゃないけど……」
「でも、デートするんだろ、こいつと」
デート。そっか、デート、なのかな。同級生からの誘いを受けたのは、蒼くんから卒業しようと思ったから。いつまでも蒼くんのそばにいると、叶わない恋だってわかっているのに、蒼くんへの気持ちが強くなりすぎて、辛いから。だから、蒼くん以外の男の子と仲良くなって、蒼くん離れをしようと思ったのだ。
「なんでそんなに不機嫌そうなの?蒼くんに関係ないじゃん。蒼くんだって、みさ姉とデートしたりするでしょ」
「なんでみさ姉が出てくるんだよ。こいつとみさ姉は立場も状況も違うだろ」
違う?違くなんてないよ。蒼くんとみさ姉はどう見てもお似合いだし、きっと両思いだ。私にとっては蒼くんとみさ姉はデートしてるようにしか見えない。みさ姉は美人で優しくて大人だ、蒼くんはきっとそんな大人なみさ姉のことが好きで、私みたいな幼い、可愛げもない女なんて好きにならないってわかってる。
「こいつのこと、好きなの?」
「別に、好きとかじゃないし、そもそもまだよくわかんないよ」
「なんで好きでもないやつと一緒に水族館なんて行くんだよ。もしもクソみたいな奴で騙されてたらどうすんだよ」
「そんなことするような子じゃないよ!……知りもしないくせにそんなこと言わないで」
私の返事を聞いて、蒼くんは明らかに怒った顔をしている。どうして蒼くんが怒るの?蒼くんには関係ないでしょう?蒼くんにそんなこと言われたら、蒼くんへの報われない思いが溢れて口からこぼれてしまいそうになる。
「っ、とにかく、蒼くんには関係ないでしょ!お皿、洗い終わったから帰るね!」
蒼くんからスマホを奪って、私は蒼くんに背中を向けて出ていった。こんな風に今日を終わらせるつもり、なかったんだけどな……。



