師道社長はゆっくりと歩み寄って来ると、誠太のすぐ横で立ち止まり、「その手、離してくれない?」と静かに言った。
その言葉に誠太は慌てて掴んだわたしの腕を離し、「師道社長、まだいらっしゃったんですね。」と言って、座っていたデスクから離れた。
「仕事が終わったなら帰りなさい。」
「はい!では、お先に失礼します!」
そう言って、誠太は若干焦り気味に帰って行った。
誠太が帰っていく姿を無表情で見送った師道社長は、今度はわたしに視線を向けた。
「まだご帰宅されてなかったんですね。香川さんが待ってるんじゃないですか?」
わたしがそう言うと、師道社長はわたしの隣のデスクに腰を掛け「妃都と一緒に帰るから、その時になったら連絡するって伝えてあるから大丈夫。」と言った。
「先にご帰宅されてて良いって、言ったじゃないですか。」
「妃都と一緒に帰りたかったってのもあるけど、心配だったから。その心配は、的中したね。先に帰らなくて良かった。」
師道社長はそう言って、わたしに向けて微笑みを見せた。
「さっきのって、高坂さんだっけ。」
「はい。」
「あれが、妃都の元彼?」
「、、、まぁ。でも、もう2年前のことなので。」
わたしはあまり触れられたくない話をされ、師道社長とは目を合わせられず、パソコンを見つめていた。
すると、師道社長は「高坂さんとは、、、キスしたこと、あるんだよね?」と言い出した。
「キスもハグも、ベッドの上ですることも、、、全部、したことあるんでしょ?」
師道社長の言葉にわたしは恥ずかしくて答えることが出来なかった。
そんなわたしの顔を師道社長は覗き込み、「俺は3ヵ月経っても、キスすらさせてもらえてないのに、、、。」と、寂しそうに言ったのだった。



