会社に到着し車を降りて、わたしは師道社長から一歩下がって歩き、正面の入口から入り、社員をタッチしてゲートを抜ける。
わたしたちが夫婦で出勤すると、どうしても視線が集まり、わたしはそれが嫌だったのだが、師道社長は何も気にしていない様子で歩いていた。
エレベーターを待っていると、社長秘書の井神さんが出勤して来て「おはようございます。」と挨拶されたので、「おはようございます。」と挨拶を返した。
しかし、井神さんはすぐに態度を切り替え、「師道社長、おはようございます。今日のご予定なんですが、」と明るくハキハキした口調で話し始めた。
分かりやすい。
師道社長に気があるのが見え見えだ。
そうしている内にエレベーターが下りて来て、わたしたちはエレベーターに乗り込む。
そして、わたしは先にエレベーターから降りようとし、背中から師道社長に「妃都。」と呼ばれ振り返ると、師道社長は微笑みながらわたしに手を振っていた。
わたしは軽く会釈をすると、自分の担当のフロアへと向かった。
「雪宮部長、おはようございます。」
「おはよう。」
すれ違う部下たちに挨拶をされながら、自分のデスクへと向かう。
すると、デスクに着くと共に「おはよー。」と耳障りな声が聞こえてきた。
「今日も夫婦仲良くご出勤してましたね。目立ってましたよ?雪宮部長。」
そう茶化してきたのは、同じ部長職の高坂誠太。
誠太は、わたしの元彼だ。



