そしてわたしたちは、自宅のタワーマンションの上層階から時間をかけて一階まで降り、毎朝迎えに来てくれる運転手の香川さんの車に乗った。

「おはようございます。師道社長、奥様。」
「おはよう。」
「おはようございます、香川さん。」

香川さんは白髪の年配の運転手さん。
いつも穏やかで師道家と関わりのある人たちの中でわたしが唯一話せる人だ。

「師道社長、今日のご帰宅時間は?」

香川さんがそう訊くと、師道社長は「18時には終わるよ。」と答えたあと、わたしに「妃都は?」と訊いてきた。

「わたしは少し残業になるかもしれません。なので、先にご帰宅されててください。」
「一人で帰宅なんて寂しいよ。妃都が仕事終わるまで待ってる。」
「お気になさらず。わたしは自分で帰れますから。」

わたしがそう言うと、香川さんが「先に師道社長をお送りしてから、奥様をお迎えに参りますので、ご連絡ください。」と言ってくれた。

「香川さん、いつも申し訳ないわね。」
「いえいえ、それが運転手としての務めですから。」

そう話しているのを聞いていた師道社長は、「妃都と一緒に帰宅したかったなぁ。」と拗ねたような言い方をして、窓の外に目を向けていた。

どうせ、一人の時間が出来たら、他の女のとこにでも行くんでしょ?

わたしはそう思いながら、師道社長とは反対側の窓の外へ視線を向けた。

いつか裏切られるんだから、仲良くする必要なんて無い。

好きになってしまったら、、、別れる時がツラいだけだから。