しかし、師道社長は諦めてくれなかった。
それで折れたのは、わたしの方だった。
ただ、結婚する代わりに条件を付けてもらった。
一つは、結婚しても今の役職のまま仕事を続けさせてくれること。
そして、結婚しても旧姓の"雪宮"のままで在籍させてくれること。
それから、社長と結婚すれば必ず言われるであろう予想がつく"後継ぎ"について期待しないこと、圧力をかけないで欲しいこと。
結婚式は挙げないこと。
わたしを裏切るような事はしないこと。
わたしからの条件は、この5つだった。
師道社長は「分かった。」と言ってくれたが、師道社長の父である会長とお義母さんはわたしの条件を呑むはずがなく、大反対を受けた。
それもそのはずだ。
「全国的有名な師道ホールディングスの社長夫人が家庭に入って夫を支えないなんて考えられない。」
「嫁いでくるくせに、"雪宮"のまま在籍するとはどういうことだ。」
「後継ぎはどうするつもりだ。」
「結婚式を挙げないなんて有り得ない!」
散々言われたが、わたしは大反対をされるのを分かっていて敢えてその条件を出したのだ。
しかし、師道社長は「俺は雪宮さんとしか、結婚は考えられない。」と何とか両親を説得し、その条件を破ったら即離婚すると契約を交わして入籍し3ヵ月経つのだが、もちろんわたしは師道一族から嫌われている。
でも、わたしはそれでも良かった。
わたしが望んでした結婚ではない。
条件が破られれば、離婚すればいいだけなのだから。



