「妃都は、俺のことを避ける理由が何かあるんだよね?"契約結婚だから"って以前に、何かあるんじゃない?」
ピーラーで人参の皮を剥くわたしに師道社長は訊く。
わたしはその言葉に「男性は、、、浮気をする生き物じゃないですか。」と答えた。
「まぁ、今の世の中、男性女性関係なく、浮気や不倫をする人はたくさん居ます。わたしは、幼い頃からそんな裏切りばかりを見て育ってきました。わたし自身も裏切られてきました。だから、男性のことは信用出来ないんです。最終的に裏切られるなら、人を好きになったりしない。結婚なんてしない。そう決めたんです。」
わたしがそう話す間、師道社長は黙って聞いてくれていた。
そして何となく、わたしを抱き締める腕に力がこもるのを感じた。
「それなのに、師道社長がしつこいので、条件付きで契約結婚しました。わたしはいずれ、契約が破られると思っています。だから、師道社長のことを好きになる必要がないんです。好きになってしまったら、、、別れる時にツラいじゃないですか、、、」
わたしがそう言い終わると、師道社長は耳元で「そうだったんだね、、、。でも、俺は妃都を裏切ったりしないよ。」と囁くように言った。
「その言葉も聞き飽きました。そう言ったって、口だけで簡単に裏切るんですよ、、、こっちが信じてる気持ちを踏みにじるように、、、」
わたしがそう言うと、師道社長は「妃都?」と呼び、わたしの手から人参とピーラーを取ると、まな板の上に置いて、わたしを師道社長の方に向かせた。
「俺は今までの男たちとは違うよ?そう言っても信じてもらえないかもしれないけど、、、信じてもらえるように、これから努力していくよ。」
そう言う師道社長の表情は真剣で、わたしはその真っ直ぐな瞳をつい見入ってしまった。
何で?何でそこまで、、、わたしを振り向かせようとしてくるの?



