きみはあたしのライラック

「……なら、ちゃんと僕の目を見て言って。」

「!」



近付いてきたひもろぎさんは
うつむくあたしの手首を、ぐっと掴む。



「ちゃんと僕を見て。」



逃げないように力強く握って
静かに優しく繰り返す。



「「…」」



……しばらく、お互い
無言で立ち尽くしていたけど


やがて、我慢比べに負けてしまったあたしは
ゆっくりと顔を上げ、ひもろぎさんを見上げた。


ひもろぎさんは、あたしの顔を見て
少し、困ったように眉を下げた。



「……ほら、泣きそうな表情(かお)してる。」

「………ごめんなさい。」



相手を煩わせたくないなら
自分の感情を押し殺せばいいだけの話なのに

『何でもない』を『大丈夫』を貫いて
笑顔を作ればいいだけの話なのに


……どうしても、それが出来なかった。



「謝らないで。」



また顔を伏せてしまったあたしに
ひもろぎさんは、そっと両手を伸ばして
掬うように、上向かせる。



「大丈夫だよ。」



優しい眼差しをあたしに向ける。

ひもろぎさんが言葉を紡ぐ度に
心の中で抑えていた気持ちが、瞳からあふれる。



「大丈夫だから、教えて?」