きみはあたしのライラック

――…




……ひもろぎさんにお礼、言わなきゃな。




佐奈がバイトに復帰した日の夜。

夢の中へとやってきたあたしは
いつものように、ひもろぎさんがいる
あの場所を目指しながら、そんな事を考える。




ひもろぎさんは、あの後も
詳しいことは何も口にしなかったけど

あの日のひもろぎさんの言葉通り
佐奈は元気になって戻って来た。


『お節介を焼いてくる』


何をしたのかは分からないけど、少なくとも
ひもろぎさんが佐奈のために動いてくれたことは事実だろう。



「……にしても、心当たりがあるって
もしかして、佐奈とひもろぎさん
面識があるのかな?」



もしかしたら、ふたりは夢の中で会った事があるのかもしれない。


ひもろぎさんからは、そんな話は聞かないけど
関わりがなければ、心当たりなんて浮かばないはず。


それに、あたしが初めて佐奈の事を話した時
ひもろぎさんは少しだけ、驚いたような顔をしていた。


よくよく思い返せば
佐奈の様子を気にするような発言も多かった気がする。


それこそ、孫の様子を
遠くから見守るおじいちゃんのような感じで。



「…」



ひもろぎさんと佐奈の関係性は
少し、気になるけど…


ひもろぎさんが、何も語らないって言う事は
きっと、あたしが知る必要のないことなんだろう。



「……なにはともあれ…」



佐奈に力を貸してくれたひもろぎさんへ
今日は、とびきりのスイーツを振る舞おう。


気合いを入れて、あたしは
ひもろぎさんのもとへと向かった。