きみはあたしのライラック

それから、数日後の事だった。



「心配かけて、ごめんなさい。
今日からまた、よろしくお願いします。」



深々と、おばあちゃんとあたしに
頭を下げる佐奈。



しばらくバイトを休んでいた佐奈だったけど
昨日、状態が落ち着いたからと連絡が来て
今日からバイトに復帰することになった。




「体調は本当に大丈夫なのかい?」

「はい。」

「そうかい。また、よろしくねぇ。」

「はい。」



憑き物が落ちたかのように
すっきりとした表情を浮かべてる佐奈。

それに安心したように
おばあちゃんは表情と声をやわらげた。



「すずも。色々ありがとう。」

「ううん。あたしは何も…」

「倒れずにいられたのは
すずが渡してくれたお弁当達のおかげだから。」



首を横に振るあたしに
佐奈は笑って、そう言った。



食欲がないから、残してしまうかもしれないと
それは申し訳ないからと
拒む佐奈に、それでもいいからと
無理矢理持たせたお弁当とおかず。



「……役に立ったなら良かった。」

「うん。ありがとう。」



友達が傍で悩んでいたのに
何もしてあげられなかったから

それが心苦しかった。

だから、そんな風に言って貰えて救われた。



小さく笑えば、佐奈も柔らかく笑う。




「……すずにね。
いつか聞いてもらいたい話があるんだ。」

「話?」

「うん。……何を言ってるんだって
笑われちゃうかもしれないんだけど…」



信じてもらえるか分からないけど
それでも、あたしに話したいことがあると


佐奈は優しい表情(かお)で、あたしに言う。



…。



見惚れちゃうくらいの優しい笑顔。
この笑顔は前にも、一度見たことがある。




それは、多分
佐奈に『きっかけ』を与えた
佐奈を変えた『誰か』の話。



あたしの知らない、佐奈と誰かの物語だ。




「楽しみにしてる。」




笑顔で頷けば、佐奈も嬉しそうに笑った。