きみはあたしのライラック

――……



お茶とお菓子の用意が整ってから
ひもろぎさんは、ゆっくりと話し始めた。



「僕の生まれた時代は
疫病とか飢饉(ききん)とか、自然災害だとか
そういうものであふれていて」


「僕の生まれた村は
比較的穏やかではあったんだけど
数年置きに干ばつが起きるような場所で
だから、水の神様への信仰心の強い村だった。」



………水の神様。



「……『みなかみさま』。」

「そう。みなかみさまは、水を司る神様。
僕の村を守ってくれていた神様だよ。」



浮かんだその言葉を口にすれば
ご名答と、ひもろぎさんは微笑む。



「神降ろしの儀式の度に、 みなかみさまは
村人に知恵を授けて、必要な分の恵みを与えた。」



今よりも、神様の存在が身近だった時代。

神様と人は繋がりやすかった。



「そのおかげで、窮地に陥っても
村は廃れることなく、存続することが出来た。」



悩み苦しむ人々は神様に縋った。

そして、神様はそれに応えた。



「ここまでは、平和な話なんだけど…」


「七つまでは神の内って、言葉があるでしょ?
それまでは、神降ろしに選ばれた子供は
神聖な存在として扱われるけど」


「七歳を過ぎたあと、役目を終えた
よりましの子はね、神様への贄にされる。
豊穣をもたらしてくれた神様へ、対価として
捧げ物にされるんだ。」



それぞれの地域に根ざした
因習や風習というものがある。

ひもろぎさんが生まれ育ったその場所では
そういう習わしがあったのだと。



「山の中にある、鍵付きの社の中に
閉じ込められて、死ぬまで出られない。」



険しい山の中
子供ひとりがようやく入れる狭い社に
厳重な鍵をかけられ、水も食料も断たれる。


幼い子供の力では
そこから逃れることは出来ない。


仮に、そこから逃れられたとして、行く宛もない。


よりましの子供達は皆
静かに死を待つしかなかった。