きみはあたしのライラック

「………あんまり、いじめないで…」

「…いじめてるつもりはないんだけど。」



困り果てた弱々しい声が口からこぼれる。
浮かべている表情も、きっと同じだろう。



「…」



……あ。



不意に視界がぼやけ、眠気に襲われる。


どうやら、現実世界のあたしが
目覚める時間がやってきた様子。


うとうとしながら
あたしは、ひもろぎさんに声を返す。



「……それに、もし、あたしが
ひもろぎさんを『恋愛対象』として見ていたら
ひもろぎさん、嫌でしょ？」



そういう意味で、好きなわけじゃない相手からの好意は迷惑だって、知ってる。



「あたしみたいなのに、好かれたら
ひもろぎさんは、困るでしょ？」



自分の好意が相手にとっては、嫌悪や不快の対象にしかならないことも、知ってる。



「僕は…」



ひもろぎさんの言葉を遮って、あたしは言う。



「……だから、あんまり
好きになっちゃうようなこと、しないでね。」



ひもろぎさんとの
今の関係性が崩れるのは嫌だから。




「…」




………だめだ。



もう、目を開けていられない。





「……あのね、すず。それは―…」





ひもろぎさんの声が、遠くなる。





「………好きだって、言ってるようなものだよ。」





その言葉が、あたしの耳に届くことはなかった。