きみはあたしのライラック

真っ白な世界に、ぽつんと佇む扉。



「…」



しばらく、その扉を見つめたまま
じっと、その場に立ち尽くしていたけど


意を決して、扉の引き手に手を伸ばして



そして、そのまま扉を開けた。



扉の先に広がるのは放課後の教室の景色。


窓の外から差し込む西日が
誰もいない教室を眩しく照らす。



……今日こそは。



緊張から、喉が渇く。


ごくりと生唾を飲み込んで
心と呼吸を整えてから


覚悟を決めたあたしは
茜色に染まる室内へと、足を踏み出す。



「…」



いつもなら、ここでブレーキがかかる。

教室の床に足を下ろそうとすると
記憶がフラッシュバックして、あたしの動きを止める。


でも、今日はそれがなかった。



…………あ、あれ?



しっかりと、片足は床についている。




「……………入れた……」



そのまま、拍子抜けしてしまうくらい
あっさりと扉を通過して

全身、教室へ入ることに成功した
あたしの口からは、ぽかんとした声がこぼれる。



「おめでとう。すず。」

「!ひ、ひもろぎさん…」



呆けるあたしの隣には
いつの間にか、ひもろぎさんがいて



「教室。入れたね。」

「……うん。」



茫然自失していたあたしを見上げて、優しく笑う。



「…」



あたしは、近くの席に腰掛けて
そのまま、ゆっくり教室内を見渡した。


規則正しく並んだ机とイス
大きな黒板、教卓、掲示板、掃除用具の入ったロッカー、ゴミ箱…


なんてことはない
どこにでもある学校の、教室の景色。


でも、あたしにとっては
恐怖の染み付いた場所の景色。


怖くて怖くて仕方のない景色。