きみはあたしのライラック

「……花とか、好きなんですか?」

「…………え?」



ぎゅっと
布団を握り締め、うつむいていたあたしは
急な話題転換にきょとんとして、顔を上げた。


あの子の視線は、本棚に向けられている。



「本棚に、花とか植物の本がたくさんあったから。」

「……………は、い。」




……一瞬



『つまんないね。』



頭に浮かんだ嘲笑に、耳に響いた過去の声に
口にするのをためらったけど、あたしは素直に頷いた。


同じものが返ってくるのではと
びくびくしながら、あの子の反応を窺う。


でも、返ってきたのは、小さな笑顔だった。



「なら、花言葉とかも?」

「…………それなりには。」



抱き締めるように抱えていた、その本を
あの子はあたしに差し出した。

それは、あたしが幼い頃に
初めて買った『花言葉』の本だった。



「私、こういうものに興味があるみたいで
もっと知りたいんです。
だから…良かったら教えてもらえませんか?」

「…………あたしが?」

「……だめですか?」



自分の好きなものに
『興味がある』なんて言葉が返ってくるのは
そんな事を言って貰えたのは初めてで


それが、本心からの言葉だって


浮かべているその表情で分かるからこそ
驚きと戸惑いの感情が湧いてくる。


でも、それを押し退けるくらいの
喜びと嬉しさが、あたしの心にあふれてきて



「…………あたしで…いいなら…」



緊張がほどけて、小さく口許が緩む。



控え目に返したその言葉に
あの子は、嬉しそうに目尻を下げて



「よろしくお願いします。」

「……はい。」



笑顔と共に目の前に差し出されたその手を
あたしは、そっと握り返し、頷いた。





そうして、あたしは
また、ひとつ『きっかけ』を手に入れた。