きみはあたしのライラック

発した言葉が、思った通りに伝わるとは限らないって、知っているから。

一度、口にした言葉を、なかったことには出来ないって、知っているから。


相手の『言葉』に『感情』に
たくさん傷付けられた経験があるからこそ

他人(ひと)とコミュニケーションを取ることに
臆病になってる。


あたしが口にする『言葉』は『感情』は
見せる『態度』は、浮かべる『表情』は

相手を傷付けないかって
不快にさせないかって
嫌われないかって、不安になる。



｢じゃあ、自分の選ぶ言葉が…
気持ちが不安ですか？｣



心の内を読み取ったかのような言葉を向けられ、あたしは目を見開いた。



｢……私は不安です。言葉は、自分以外の何かや
誰かに向けることが圧倒的に多いし
他意がなくても勘違いされたり
相手を傷つけてしまう事もあるから。｣



まるで、あたしの心の声を代弁するかのように語る
あの子の表情は、言葉通り不安そうで



｢私は、それが嫌で口をつぐみました。
長い間、それを続けてきたから
あんまり話すのは得意じゃないんです。
……相手との距離も、上手く掴めない。｣



その声は、ほんの少し
緊張とためらいで揺れていた。


きっと、こんな風に
自分の心の内を話すことは
この子にとっても、大きなことなんだと思う。


それでも、必死に
怯えるあたしに想いを伝えてくれる。



…。
………同じ、なんだ…



この子も、あたしと同じように
他人(ひと)との関係に、悩んでいたんだ。


いつも、凛とした強さを見せていた瞳が
今は、弱さを写し出していて


とても大きく見えていたけど
目の前にいるこの子も、自分と変わらない悩みを持つ、年相応の女の子なんだと、ようやく実感する。