――…




「…」



目覚めれば、青空が広がっていた。


ベッドの上で、仰向けになったまま
雲ひとつない晴天を、ぼんやり見つめていると



「やぁ、すず。」

「………ひもろぎさん?」



その視界にひょこっと現れた、ひもろぎさんが
覗き込むように、あたしを見下ろす。



………この青空…
…それに、ひもろぎさんがいる…って事は…



「……ここ、夢の中?」

「そうだよ。すず、現実世界で寝込んでる?」

「………ちょっと、風邪ひいて……」



ひもろぎさんは、ほんの少し心配そうに眉を寄せ
あたしの額に手を伸ばした。

触れたひもろぎさんの手が冷たく感じる程に
夢の中のあたしの身体は熱を持っていた。



「向こうよりは、多少、楽だと思うけど
ここは、精神の影響を強く受けるから
現実世界で弱ってると、夢の中でも弱っちゃうんだよね。」

「……そう、なんだ…」

「まぁ、とにかく
無理せず、ゆっくり休んで。」

「……うん。」



あたしの額から手を離したひもろぎさんは
気遣いの言葉と、控え目な笑顔を向ける。


それに頷いて、あたしは
また、ぼんやり空を見つめた。



「暗い方がいいなら、夜にしようか?」

「……ううん。明るい方がいい。」

「そう。」

「………ひもろぎさん。ここにいてくれる?」

「もちろんさ。」



答えるなり、ひもろぎさんはベッドに上がり
あたしの隣を陣取って

うつ伏せになりながら
いつの間にか、枕元にあった、その本を手に取った。



「現実世界のすずの目が覚めるまで
本を読んであげるよ。」



可愛らしい気遣いに、あたしの表情は緩む。



「…何の話を聞かせてくれるの?」

「えっとね、気に入ってる昔話なんだけどー…」



あたしは、目覚めるまでずっと
ひもろぎさんの優しい声で紡がれる物語に
ぼんやりと、耳を傾けた。