きみはあたしのライラック

「……ひもろぎさんって。」

「ふん?」

「本当に優しいね。」

「ほう?」



向けた言葉に、リスのように
シフォンケーキを口いっぱいに詰め込んでいた
ひもろぎさんは、不思議そうに首を傾げた。



「うん。」



本当に優しい人は自覚がないもの。
あたしの、おばあちゃんもそうだ。


なんてことのないように、言葉や行動で
相手の心を、優しく照らす。


無自覚に、無意識に、相手に安らぎを与える。



泣いていたら、寄り添って

落ち込んでいたら、励まして

不安がっていたら、安心を与える。



それを、意図せずにやってのける。




再び、フォークを手に取り
シフォンケーキを、ぱくりと口に入れる。



「…」



口の中に広がる甘さと、優しさ。



初めて出会った時から
ひもろぎさんは優しかったけど

事あるごとに、優しさを与えてくれたけど

今は、その優しさが、より一層、心に染みる。



「……ありがとう。すごく、美味しい。」



泣きそうになりながらも、笑って感謝を伝えれば
ひもろぎさんは、「すずには、負けるけどね。」と
嬉しそうに表情を綻ばせた。