きみはあたしのライラック

「……美味しい。」

「良かった。」

「これ、ブルーベリー?
……にしては、味がちょっと違うような…」

「桑(くわ)の実だよ。」

「桑の実?」

「知らない?
山の中の木になってる、黒紫色の実。
木苺を細長くしたようなの。」

「…知らない。けど、甘くて美味しい。」

「昔、好きでよく食べてたんだ。
今も、ジャムにして食べたりしてる。」



言いながら、ひもろぎさんも
シフォンケーキを素手でつかんで
そのまま、豪快にかぶりつく。



「…うん。みなかみさま程じゃないけど
美味しく出来て良かった。」



もぐもぐと、確かめるように味わった後
ひもろぎさんが、満足そうに呟いた。



「みなかみさま?」

「うん。これは、みなかみさまが得意なお菓子。
僕が落ち込んでる時とか、よく作ってくれたんだ。」

「…」



……『落ち込んでる時』。



ひもろぎさんが、何気なく口にした言葉に
あたしは、目をぱちくりとさせた。



………ああ、そっか。



あたしが、落ち込んでいたから
一生懸命、元気付けようとしてくれたんだ。


自分の記憶の中から、その方法を探して。