きみはあたしのライラック

…。
……焦っても、仕方ないのは分かってる。


あれが今のあたし。
受け入れて、また、頑張るしかない。


だけど


………こんな調子で
あたし、現実世界で本当にやっていけるのかな……



理想と現実とのギャップに、焦燥感と不安が押し寄せて、気弱な自分が顔を覗かせる。



「…」

「ねぇ、すず。今日は僕が作るよ。」

「…え?」



ぼんやりと考え込んでしまって
調理の手が止まっていたあたし。

そんなあたしを
無言で見つめていたひもろぎさんが
突然、そんなことを言い出す。



「え、あの、ひ、ひもろぎさん…?」



ひもろぎさんは、ぐいぐいと
戸惑うあたしの背中を押して、キッチンから退場させる。



「待ってて。」



あたしを座布団の上に座らせると
そう言い残して、ひもろぎさんはひとり
キッチンへと戻って行った。



「…」



突然の申し出にあっけに取られながら
あたしは、意気揚々とキッチンに立つひもろぎさんを、そのまま眺めた。




――……




しばらくして―…




「はい。どうぞ。」

「……シフォンケーキ?」



目の前に出されたのは
薄紫色のシフォンケーキだった。

小皿に乗せられたシフォンケーキの傍には
生クリームとジャムが添えられている。



………ひもろぎさん、お菓子作れたんだ。



綺麗な出来のシフォンケーキに見入っていると
ひもろぎさんが笑顔で言う。



「食べてみて。」

「……いただきます。」



頷いて、フォークを手に取り
切り取ったシフォンケーキに
生クリームとジャム乗せて、口に入れれば…



「!」



口の中に広がる、シフォンケーキの柔らかさに
生クリームとジャムの甘さと、粒々の食感に
あたしは、表情を輝かせる。