きみはあたしのライラック

――……




「……無理して作らなくてもいいよ?」

「ううん。大丈夫。」



しばらく休んで、気分が落ち着いてきたあたしは
いつものように、ひもろぎさんのお菓子作りに着手する。


作業するあたしを、ひもろぎさんは眉を八の字にして、傍らで心配そうに見つめてる。


あたしは、そんなひもろぎさんに
小さく笑顔を返した。




……




『夢を介して
その相手の記憶を見ることもできる。』




前に聞いていた、ひもろぎさんの言葉を思い出して
あたしは、ひもろぎさんにお願いをした。


あたしの記憶の中にある、あの景色を
この場所に再現して欲しいと。


トラウマを克服するために協力して欲しいと
お願いした。




近くで頑張るあの子に、負けないように
自分も逃げずに、ちゃんと、過去(トラウマ)と向き合おうって思った。


受け入れて、前に進もうって。




でも…




「…」



調理器具を持つ手は、まだ少し震えが残ってる。

動悸も収まりきってはいない。

内側にある恐怖は、どうしても拭い切れない。


誰もいない、創りものの教室なのに
分かっているのに、足を踏み入れる事さえ出来なかった。


教室の扉の前で立ち尽くす。


現実の世界でも、そんな時があった。