きみはあたしのライラック

翌日の夜、就寝後。


真っ白な夢の中を歩く。



「…」



歩いた先に、見えたのは
いつものあの景色ではなく。


四角い採光窓のついた横引きの扉。


曇りガラスだから
窓の向こうは、ぼやけている。


だけど


うっすら浮かんで見える、その輪郭(りんかく)に


その先に待ち受けているであろう光景に
あたしの心臓は早鐘を打つ。


その扉の前で深呼吸してから
震える手を、おそるおそる伸ばして


扉を開けた。



「…」



視界に広がった景色に、あたしは息を飲む。


覚悟していたはずなのに
いざ、こうして間のあたりにしたら
どうしても、動揺してしまって


身体は強張り、呼吸も早く、浅くなる。




――…




『うわ、こいつ。休憩時間まで勉強してるぜ。』




言われた言葉が、いつまでも耳に残ってる。




『勉強しか取り柄がないからだろ。』




何度も何度も、繰り返し。




『暗いし、全然しゃべんないし。』




頭の中で再生される。




『見た目も地味な上に根暗とか、笑える。』




馬鹿にされ、笑い者にされたこと。




『あ、わりぃ。影薄すぎて気付かなかったわ。』




目の前にいるのに
存在をなかった事にされたこと。




『ねぇ、悪いんだけど
掃除代わってくれない?用あるの。』




都合のいい道具として扱われたこと。