きみはあたしのライラック

「……みなかみさまは
高天ヶ原(たかまがはら)に戻ってしまうの?」



神々の住まう地、高天ヶ原。
みなかみさまが本来、いるべき場所。


だけど、みなかみさまは
僕を拾ったあの日から
ほとんど高天ヶ原には戻らなかった。


自分の神域には戻らずに
ずっと、ここに、僕のそばにいた。


普通の人と
何ら変わらない生活を送りながら


本当の家族みたいに
ずっと、そばにいてくれた。



「僕はここでの生活が気に入っているから
しばらくは、ここにいるつもりだよ。」

「……ひとりで、寂しくはない?」



昔は、自分の事しか考えられなかった。


ずっとそばにいてくれた、見守っていてくれた
みなかみさまの気持ちなんて考えず
恩も忘れて、何度も死のうとした。


みなかみさまを置きざりにして
この世から去ろうとした。


だけど、それでも


それを責めずに、変わらず、ずっと
僕のそばにいてくれた みなかみさま。


僕の親のような存在。


人と変わらない優しさを、感情を持つ神様。


そんなひとを、この場所に
ひとり残して行くことが気がかりだった。