きみはあたしのライラック

「…」



ただの人に戻ったけど、今の現代社会に溶け込むのは難しいと感じていた。

あの中で生きるには
足りないものが多すぎたから。

だから、僕は変わらず
この場所で、この家で暮らしていくつもりだった。


でも



「……みなかみさまは、いつも僕に甘い。」



選べる選択肢が少なくても
人としての時間を取り戻せただけで
充分だと思っていたのに。


昔からだ。


食べるものも、着るものも、住む場所も
生きるのに必要なものは
なんだって与えようとする。



「当然だろう?
きみは、僕の大事な子供なんだから。」



それを、このひとは過保護だとは思わない。
与えて当然のものだと考えている。


無条件の愛情、慈しみ。


それは、神だからか
それとも、このひとだからか。



「だけど、僕が手助けするのは、これで最後。
これからは、きみ自身の力で頑張るんだよ。」

「…うん。」



巣立ちの時だと、笑うみなかみさまに
僕も小さく笑顔を返す。