きみはあたしのライラック

りんは僕を責めるようなことは言わないし
そもそも責めていないって、知っていたけど

そんな風に思っていてくれたなんて
知らなかったから。



……あの日、あの時。


「拒絶」すれば
良かったんじゃないかと思った。


「よりまし」に選ばれたあの子を拒絶しておけば
あの子に「降り」なければ
こんなことにはならなかった。


僕自身、りんがあんな風になるなんて
思いもしなかったし、前例もなかった。


どうしようもないことだったって
分かっているけど


よりましとして生きることを選んだのは
納得して、受け入れたのは
確かに、他でもないりんだけど


よりましになったせいで
りんは長い時間、苦しむことになって


そうなった理由のひとつに、僕がいるのも


僕が、りんに「降りた」せいで
そうなったことも紛れもない事実で。


だから


僕のせいで、あの子は苦しんだんじゃないかと


僕が、あの子を不幸にしたんじゃないかと


心のどこかで、負い目を


罪悪感を感じていた。



だけど



『みなかみさまが
パパのパパで良かったって。』



『みなかみさまが、僕の親で良かった。』



りんがれいに伝えたであろう
その言葉が、その声が頭の中で鮮やかに響いて

深く深く僕の心に広がって
灯火のように、胸中を照らす。



「大丈夫?どこか痛い?」

「……ううん。」



心配そうに眉を寄せて
僕の涙を拭おうとする優しい子。



随分と長い長い時間を一緒に過ごして
いつの間にか、とても大切な存在になっていた。


その大切な存在が、繋いでいくものが


あの子達や、この子のことが


とても、愛しくてたまらない。



「れい。」

「なぁに?」



「生まれてきてくれて、ありがとう。」




繋がり、巡る。



想いの連鎖。



それは、とても、尊いものだ。