きみはあたしのライラック


……
………




―――……




「ねー、みなかみさま。」

「なんだい?」

「パパとママ、喜ぶかな?」

「喜ぶさ。れいが頑張って作ったものだから。」

「ほんと?」

「うん。」



隣で、不安そうな顔で
僕を見上げる小さな女の子。


頷いて、笑顔を返す。



「ちゃんと、綺麗に出来てるよ。
味も、美味しかったしね。」



言いながら机の上に視線を向ける。


そこには


彼女が頑張って作って
小分けに包装したシフォンケーキと
ビン詰めした桑の実のジャムがある。




一週間くらい前のこと。


いつもは両親と一緒に
ここを訪れていたこの子が
初めてひとりでやってきて


ふたりの結婚記念日のお祝いをしたいから
シフォンケーキの作り方を教えて欲しいと言われた。



『パパもママも、れいも
みなかみさまのシフォンケーキ大好きだから。』



両親を想う健気な姿

加えて

そんな嬉しいことを言われてしまって


心を打たれた僕は
それはそれは張り切って彼女に協力した。



「パパとママ、帰ってくるまで
まだ時間あるから、ここにいてもいい?」

「いくらでも。」



頷けば、彼女は嬉しそうに笑って
繋いでいた手をほどいて
ぎゅっと僕に抱きついてくる。


彼女はこうして
誰かにくっつくのが大好きな、人懐こい子だ。

甘え上手で、とても愛らしい。

外見は母親似だけど、中身は父親にそっくりだ。



抱き上げて、その頭を撫でれば
ますます嬉しそうに表情を綻ばせる。



……まさか、本当にこうして
孫の顔を見れるなんて思わなかったな。