きみはあたしのライラック

――…



「また、いつでも遊びにおいで。」

「はい。ありがとうございました。」

「りん。ちゃんと町まで
すずを送り届けるんだよ。」

「うん。」



みなかみさまに頷いてから
僕は、すずに手を差し出した。



「はい、すず。
また転んだら危ないから。」

「大丈夫だよ。そんなに
何度も転んだりなんてしないよ。」



まだ 朝露の残る山中(さんちゅう)は
山道(やまみち)に慣れていないすずには危ない。

歩けるようになったとは言え
足の怪我は完治してないんだから。


そんな僕の心配をよそに
本人は平気な顔で歩き出すけど…



「!」



言った矢先に、つるりと足を滑らせていて


見事に伏線回収しようとするすずに
僕は慌てて、手を伸ばす。


すずの背負ってるリュックの重みも相まって
尻餅をついてしまったけど

なんとか無事に
彼女が地面と衝突するのは防げた。



「……ね?だから、言ったでしょう?」

「…………ご、ごめんなさいっ!」



腕の中で目を丸くしていたすずは
慌てて、立ち上がって僕に手を差し出した。

怪我をしていないことに
ほっとしながら、手を伸ばせば

何かに気付いた様子の彼女は、また目を見開いた。



「!り、りんさん、手、擦りむいてる…血が…」

「え?あ、本当だ。」

「ご、ごめんね。今、ハンカチ…」

「大丈夫。これくらい、すぐに…」



…。



治るから。と言いかけて、僕は固まった。