きみはあたしのライラック

「それは良かった。」

「…」



寝起きの姿に、この体勢
中々に恥ずかしい現場を見られてしまって
赤面しかけたけど

みなかみさまは
それを茶化すような目はしてなかったから
すぐに落ち着きを取り戻す。



「…あの、みなかみさま。
ありがとうございました。」

「気にしないで。遊びに行くことはあっても
泊まった事はなかったから、新鮮で楽しかったよ。」

「それだけじゃなくて…」

「?」

「…ひもろぎさんの所まで、案内してくれたの
みなかみさまですよね?」



ずっと気になっていた
あたしが聞いた、音の正体。


視線を、その手元に向ければ
みなかみさまは、さらに笑みを深める。



「僕は神様だから。
願いを叶える義務がある。」


「その想いが、強ければ強いほど
願いの声は大きく聞こえるんだ。」


「ななと、きみの声は、とてもよく響いたよ。」



みなかみさまは
そこで一旦、浮かべていた笑顔を消して

あたしの足元に視線を向けると
申し訳なさそうに声を落とした。



「でも、ごめんね。
怪我をさせてしまって。」

「これは、あたしの不注意なので
みなかみさまのせいじゃないです。
それに、痛みも引きましたし、大丈夫です。」



全く痛みを感じないわけじゃないけど
ひもろぎさんの丁寧な処置のおかげで
昨日と比べたら、全然良くなっているし
ゆっくりなら、歩くのも大丈夫そうだ。



「…ありがとう。
りんは本当に、いい子に出会えた。」

「……あの、ずっと気になってたんですけど
りんって…」

「その子の名前だよ。鈴(すず)と書いてりん。」



いまだに眠っているひもろぎさんを
一瞥しながら、みなかみさまは答える。