きみはあたしのライラック

姿は幼いけど、その瞳の奥には
確かに、『大人』のひもろぎさんがいた。



「すずは嫌じゃなかった?」

「え?」

「現実の僕は嫌じゃなかった?」



どこか自信なさげに
目線を落として、聞いてくるひもろぎさんに
あたしはきょとんとした。



「どうして?」

「きみが好きになったのは
同い年の、ここでの僕でしょう?
ここでは多少、良い格好はできるけど
現実の僕は、そうじゃないし
……臆病で弱虫だから。」

「…臆病で弱虫なのは、ダメなの?」

「情けないもの。男なのに。」

「あたし、そんな風に思わなかったよ。」

「……きみを泣かせたのに?」



ちらりとあたしを見上げて
自虐的な口調で問いかけてくるひもろぎさんに
あたしは笑って頷いて


再び、ひもろぎさんの体を抱き締める。



「何も、変わってなかったよ。」



声も、話し方も、表情も、雰囲気も、見せる態度も

穏やかで、優しくて、あたたかくて


だけど


時折、その中に
ほんの少し、さみしさをにじませる。


間違いなく、あたしが好きになった
『ひもろぎさん』だった。