きみはあたしのライラック

――…




「……大丈夫かな。みなかみさま。」

「大丈夫。みなかみさまはよく人に化けて
町へ遊びに行っているから。」

「…ななちゃんが
言ってたの本当だったんだ。」



窓の外を眺めながら、ぽそりと呟けば
寝室のベッドを整えてくれていた
ひもろぎさんが振り返って、笑顔で言う。




あの後―…



無事にひもろぎさんと和解できたあたしは
窓の外が、すっかり暗くなっていることに気付いて、慌てた。



『あっ』

『どうしたの?』

『あ、あたし、町に戻らないと。宿取ってて…』

『なんて名前の宿だい?』

『えっと、蔵元旅館って名前の…』



その名前を聞いて
ひもろぎさんとみなかみさまは
揃って、少しだけ驚いたような表情を見せた。



『おや、りんの血縁の宿に泊まっていたとは。
いやはや、きみは本当にりんとの縁が深いね。』

『……ひもろぎさんの、血縁?』

『僕には妹がいたんだ。
あの旅館は、その子供たちが始めて
代々受け継いできた宿。』

『じゃあ、ななちゃんは…』

『ななとも会ったんだね。
かなり、薄くはなっているけど
一応、血は繋がってる。僕の縁者。』



思いがけない偶然と
衝撃的な事実に、言葉を失う。


呆然とするあたしに
みなかみさまは笑って言った。



『まあ、とにかく
今夜は僕がきみに代わって宿で休むから
きみはここでゆっくり休んで。
その足じゃ、まともに歩けないだろう?』

『……か、代わって…?』

『大丈夫。僕は神様だから
姿を変えて見せるのなんて、お茶の子さいさいさ。』



みなかみさまは
得意気な表情を浮かべて、そう言うと



『それじゃ、行ってくるよ。』



あたしの返答も待たずに
そのまま、ふっと姿を消した。