きみはあたしのライラック

ちりりん、ちりりん



……音、大きくなってきた。



耳に届く鈴の音が大きくなる度に
自然と、歩調も早くなる。



なんなんだろう。この音…

熊避けの鈴の音?
あたし以外にも山に入ってる人いるのかな?



なんて



すっかり、音の正体に気を取られて
足元がおろそかになっていたあたしは



「!」



ぬかるみに足を取られて
そのまま、勢い良く地面に転倒してしまった。



「…っ、!」



電気が走ったような鋭い痛みと共に
足元から、熱を感じて


上半身を起こして
おそるおそる足元を確認すれば…



「…」



転んだ拍子に
木の枝か何かに引っ掛かったのか

レギンスが派手に破けていて
そこから覗く肌は、血で赤く染まっていた。


あまり血が得意じゃないあたしは
その鮮血に青ざめる。


取り乱しそうになるのを、なんとかこらえて
リュックの中から取り出したタオルで、足を押さえる。



「……て、あて…しなきゃ…」



とにかく応急措置をしようと
リュックの中を片手で必死に探すけど
入れていたはずの救急セットが見つからない。


そうこうしている間に
あたりは段々と暗くなってきて


あたしは、焦燥感に襲われた。



……ど、どうしよう。



この足じゃ、まともに歩けない。


助けを求めようにも、スマホは圏外。
周囲に人の気配もない。



…。



考えている間にも、容赦なく闇は深まる。

ズキンズキンと、脈打つ痛みと、広がる熱。
じわじわとタオルを侵食していく赤。



「っ…」



冷静にならなきゃいけないと
頭では分かっていても
どうしても、感情の制御ができなくて



とうとう、泣き出しかけた




その時