きみはあたしのライラック

「…」



情報過多で、フリーズするあたしを見て
ひもろぎさんは、浮かべていた笑顔を消す。



「……すずは、嫌かい?
化け物の僕と、こうして話すのは。」



不安そうに瞳を揺らしながら、あたしに聞く。

悲しげな表情を浮かべているひもろぎさんに
あたしは慌てて否定する。



「!い、嫌とかじゃない!びっくりしただけ…」

「……そうか。良かった。」



ひもろぎさんは、ほっとしたように表情を緩めて
笑顔を見せる。


…。


……実際に、『化け物』と罵(ののし)られたことでもあるのだろうかと、その姿を見て思う。



「すずに嫌われるのは辛いから。
せっかく、仲良くなれたのに。」

「……少し、自分とは違うからって
嫌いになんてならないよ。」



言いながら、あたしは
ひもろぎさんのほっぺたに手を伸ばす。



「後、化け物のなんて言わないで。」



そこについていた生クリームを指先で拭いながら
優しく笑って、お願いすれば
ひもろぎさんは目を瞬かせた。



「ひもろぎさんは、あたしの大事な友達だよ。
あたしの話を聞いてくれて、作ったお菓子を美味しいって、食べてくれる。」



ひもろぎさんの無邪気さに、その笑顔に救われている。

夢の中での、このお茶のひととき。
一緒に過ごす時間に、あたしは癒されている。


何者かと、問いかけたけど
それで、ひもろぎさんへの態度を変える気なんてなかった。

ただ、夢の中
ずっと、優しくあたしに寄り添ってくれる
ひもろぎさんの事をもっと知りたいって思っただけ。



「あたしの友達を貶(けな)さないで。」

「……すず。」

「おかわり、いる?」

「……うん。食べる。」



差し出したマリトッツォを
ひもろぎさんは嬉しそうに受け取った。