きみはあたしのライラック

初日の今日は、暗くなる前に下山した。



「……ひもろぎさんがいそうな場所
絞って探さないとな。」



スマホの地図アプリを眺めながら
あたしは、ぽつりとひとりごとをこぼす。



滞在期間は10日。


本当はもっと長く滞在したかったけど
現実面での問題が色々あって
それ以上の滞在日数を確保するのは難しかった。


『見つかるまで帰らない』
なんて、威勢よく榊さんに宣言したものの
今のあたしじゃ、これが精一杯。


もちろん今回ダメでも
何度だって、探しに来るつもりではいるけど…


出来ることなら、この『かくれんぼ』は
今回で終わらせたいって思ってる。



「あ、お姉ちゃん。」



明日は、どのあたりを捜索しようかと
スマホを見つめたまま、考え込んでいると
前方から、幼い声が響いて


顔を上げれば、そこには
宿を出た時に出会った、あの女の子がいた。



「あなたは…」



足を止めたあたしを笑顔で見つめる女の子。

あれからずっと外で遊んでいたのか
ボールを持つ手や、服は、随分と汚れていた。



「ずっと遊んでたの?お家の人が心配するから
暗くなる前に早く帰った方がいいよ。」

「お家、そこ。」



その子の前で足を止めて、帰宅を促せば
その子は背後を振り返って、指差した。

そこは、あたしが宿泊しているあの宿だった。