きみはあたしのライラック

――……



佐奈に教えてもらった山の頂上までやってきた。



……社?



開けた空間に、ぽつんと佇む小さな社が
あたしを出迎える。



……こんな場所に社なんてあったんだ。



道中、誰かとすれ違うこともなかったし
頻繁に人が訪れるような場所には思えなかったけど


古びたその社には、所々修繕の跡(あと)があり
真新しい花も供えられていて
ここ一帯の草地も綺麗に整えられている。



ここに来れば榊さんに会えるの思うって
佐奈は言っていたから

もしかしたら

榊さんはこの場所を
管理している人なのかもしれない。



…けど



「…」



来た道を振り返るけど
誰かがやってくる気配はない。


社に顔を戻して
あたしは小さく息を吐き出す。


無我夢中だったから
言われるがまま、勢いで来てしまったけど…



「……本当に、会えるのかな…」

「こんな場所で、誰かと待ち合わせか?」




……。




「さ、榊さん!?」



重なった言葉と
背後から音もなく現れた榊さんに
あたしは驚いて、 時間差で飛び跳ねる。



……あ、あれ…?
さっき振り返った時、誰もいなかった…はず…?



榊さんの突然の登場に混乱するあたし。


かくいう榊さんも
そんなあたしに驚いたようで
青みががった翠色(すいしょく)の瞳を丸くしていた。