きみはあたしのライラック

「変な男が寄ってきたら困るから。」

「？……ひもろぎさんが困るの？」

「困るよ。だって…」



…



そこまで言いかけて
ひもろぎさんは、ぴたりと黙り込んだ。

続けようとした言葉に、はっとしたように
大きく目を見開いて

まるで、自分で自分の言葉に驚いたような
信じられないと、言わんばかりのそんな顔で。



「…」

「……ひもろぎさん？」



いきなり固まってしまった
ひもろぎさんに、戸惑いながらも

そっと呼び掛ければ
視線を落としていたひもろぎさんは
ゆっくりと目線を上げて、あたしへ焦点を定める。

何かに葛藤するかのように、その瞳は揺れていて



「…」



どこか苦しそうな、その表情を前にして
あたしは、無意識に
ひもろぎさんの顔に手を伸ばす。


でも


あたしのその手が、ひもろぎさんへ届く前に



「あ、あれ…ひもろぎさん？…わっ！」



ふっと、子供の姿に戻ったひもろぎさんは
そのまま、あたしに勢いよく抱きついてきた。


いきなりの事に、バランスが取れず
そのまま地面に倒れ込むあたし。



「…」



視界が反転して
目の前には、澄み渡った青空が広がる。



……い、痛くはないけど、びっくりした…



仰向けになったまま
あたしは、あたしの体に張り付いたまま
微動だにしないひもろぎさんへと顔を向ける。



「…ひもろぎさん？」

「…」

「……どうしたの？」

「…」

「ひもろぎさん。」

「…」



いくら呼び掛けても
ひもろぎさんから返事はない。
ただ黙って、あたしの胸に顔を埋めてる。



「…」



震えているわけでも、泣いているわけでもない。

でも、その姿は
何かに怯えているように見えた。


声をかけるのを止めて
代わりに、落ち着かせるようにその頭を撫でれば

ひもろぎさんは、更に力強く
あたしの体にしがみつく。