きみはあたしのライラック

「見学会、佐奈は何て?」

「佐奈も、気に入ったみたいだよ。」

「じゃあ、今日は大満足の日だね。」

「うん。ただ…」

「ただ?」

「……なんでもない。」



うっかり口にしそうになって
慌てて口を噤(つぐ)む。

だけど

中途半端に言いかけたものだから
ひもろぎさんは、それに食いついてしまう。



「何かあったの?」

「た、たいしたことじゃないの。」

「……僕には言えないことなの?」

「う…っ」



瞳を潤ませて
きゅーん…と寂しそうにあたしを見上げる
ひもろぎさん。


かわいそう+かわいいの二刀流。


愛らしいその容姿を武器にして
『泣き落とし』という
攻撃力の高い技を繰り出し
あたしの口を割らせようとする、ひもろぎさん。



「…」



そのまま、無言の圧力を向けてくるひもろぎんに
負けたあたしは、観念して、小さく口を開いた。



「………声を、かけられて…」

「声?」

「その、せ、先輩?にあたる人から…
………一目惚れしたので
連絡先教えてくださいって……」



改めて言葉にしたら
なんだか気恥ずかしくて、頬が熱くなる。



校内を見学している最中にすれ違った
同年代くらいの男の子。

少しやんちゃそうな見た目をした、その男の子に
引き留められて、そんな言葉を向けられた。



「…」

「あたし、動揺して固まっちゃって
佐奈が、うまく断ってくれたんだけど…」

「…」

「ね?大した話じゃないでしょ?
それに、きっと、からかわれただけだよ。」